幽霊のままでいい
「ちょっと僕は勘違いをしていたかもしれない」突然彼はそんなことを言った。
「2023年さえ過ぎれば、りとは大丈夫だと思い込んでいた。でも雰囲気が全く変わらない。電話越しに幽霊と話しているみたいだ」
奇遇にも、私も自分が幽霊のような感覚があった。
本来私は2023年に死ぬ予定だった。
それを彼に止められて、今一応生きているらしい。
「りとさん、さっき10日以降に会おうって言ったでしょう?」
「うん、言ってたね」
「10日より前でもいい?僕、なんか不安になってきちゃった」
私にとっては彼に会える日が最も幸福な日だ。断るはずもなく了承した。
けれど「不安」という言葉の意味に引っかかって、なぜ不安なのか聞いてみた。
「本当はりとさんはもう死んじゃっていて、僕が悲しくて忘れるために作り上げた幻聴だったらどうしようって。早くりとさんが生きていることを確認したい」
私は生きているから大丈夫だよ、とも言えなかった。2024年に入ってからかなり重い離人症にかかり、全く現実感がないのだ。
「そうだね、確かめ合おう。お互いが生きていることを」
彼には生きていて欲しいと思う。心臓の鼓動を聞けば生きていると思えるかもしれない。
でも、私はそれが少し怖かった。
私は生きているという実感が生まれてしまったら、また希死念慮に苦しむ日々が続くのではないか、と。
私はまだ幽霊のままでいい。